人間の神経細胞そのままに振る舞うチップが開発される(アメリカ研究)

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 最先端の人工知能分野で活躍する人にとって、コンピューターで脳の活動をシミュレーションすることは極めて難しい課題である。しかし、コンピューターを脳のハードウェアと同じように設計できれば、それも容易になるかもしれない。

 これを試みる新しい分野のことを「神経形態学的コンピューティング(neuromorphic computing)」という。

 そして米マサチューセッツ工科大学(MIT)のエンジニアたちは大きなハードルを越えたのかもしれない。人工シナプスを持つチップを設計したのだ。

人間の脳の神経細胞の活動とコンピューターを比較

 現時点で、人間の脳はいかなるコンピューターにも勝る性能を備えている。脳は800億もの神経細胞とそれらを結合する100兆を超えるシナプスを持ち、信号の流れを制御している。

 一方、コンピューターチップは「バイナリー」という言語シグナルを伝達することで機能する。そこでは、あらゆる情報が1と0、すなわちオンとオフという状態で記録されている。

 両者の違いを比較するために、2013年にスーパーコンピューターを利用したある実験が実施された。

 理化学研究所の「」は、82,944個のプロセッサーとペタバイトのメインメモリーを搭載する、当時のデスクトップPC25万台に相当する性能を誇るスーパーコンピューターだ。

 その京は、10.4兆のシナプスが結合された17億3000万の神経細胞が1秒間に行う活動をシミュレートするために40分を要した。ちなみに、この脳の活動は膨大な量に思えるが、人間の脳のわずか1パーセント分に過ぎない。

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ハードルを越えた人工シナプス

 もしチップがシナプス的な結合を利用するなら、コンピューターが利用できる信号の種類はずっと多くなり、シナプスのような学習が可能になる。

 シナプスは脳内に伝達される信号を仲介し、神経細胞はその数とシナプス間を流れるイオンの種類に応じて発火する。これは脳によるパターン認識、事実の記憶、課題の遂行といった作業を手助けする。

 これまでそれを人工的に再現することは困難であった。しかしMITの研究者が設計したチップは、シリコンゲルマニウムでできた人工シナプスを搭載しており、そこを流れる電流の強弱を、神経細胞がイオンを調整するのと同じように、正確にコントロールすることができる。

 従来の神経形態学的チップは、2枚の導電層がシナプスのように振る舞う”スイッチ媒体”としての非晶質で区分されるという構造をしていた。

 スイッチがオンになると、媒体をイオンが流れ、導電フィラメントを作り出し、シナプス荷重(2つの神経細胞間の信号の強弱)が再現される。

 しかしこのやり方は、ガイドとなる明確な構造がないため、信号は無限の経路を持ってしまう。そのためにチップの性能が安定せず、予測しにくいものとなる。

 「人工神経細胞にデータとしての電圧をかけたら、それをまったく同じように消去し、書き換えられねばなりません。非晶質固体の場合、再度書き込むと、いくつもの欠陥のせいでイオンがいろいろな方向に向かってしまいます。この流れは変わりやすく、制御困難です。これが最大の難関でした」と研究者リーダーのジーワン・キム(Jeehwan Kim)博士は説明する。
 

シリコンゲルマニウムの格子で人間の神経細胞を模写

 その解決策として開発されたのがシリコンゲルマニウムの格子である。これはイオンが流れる1次元チャンネルを備えており、イオンは毎回まったく同じ経路を流れることができる。

 チップはこの格子を基に設計された。電圧をかえると、チップの全シナプスが変動率4パーセントというほぼ同じ電流を示す。

 またシナプスの1つ1つにも電圧を700回かけてテストし、変動率1パーセントという可能なものとしては最も一貫性のあるデバイスであることが確認された。

 その特性をシミュレーションすることでチップに実際の作業も行わせている。用いられたデータは、画像処理ソフトを訓練するためのMNIST手書きサンプル集だ。すると数万種の手書き数字を95パーセントの精度で認識することに成功した。なお既存のソフトウェアの精度は97パーセントである。

 今後は実際にチップを作成し、手書きサンプル認識作業に当たらせることになる。そして最終的な目標は携帯型ニューラルネットワークデバイスの開発だ。

 人間のようにふるまうヒューマノイドが誕生する未来はそう遠くないのかもしれない。

 この研究は『Nature Materials』に掲載された。

References:Engineers design artificial synapse for “brain-on-a-chip” hardware | MIT News/ written by hiroching / edited by parumo
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